crinamen

[3rd] 前2作とはうって変わり、音響的な作風。菊池は今回の音を全てコンピューター内部で処理した。MAX/MSPを中心としたサウンドプロセッシング、数多くのDSP処理によりサウンドファイルを生成する。一聴して演奏しているかのような間合いもすべては加工によるものである。今回は、無音の瞬間を強調している。サウンドファイルをランダムに並べたような断片さが今回の特徴である。しかしながら一つ一つの音の生成は、極めて多くの試行錯誤から得られたものであり、単純な音の羅列ではない。その過程こそが演奏にかわるものとしての音楽の可能性を秘めていると思う。

Billy? plays funny moods

[1st] 一曲目からギュイーンと始まる逆回転ターンテーブルに目まぐるしくからむサンプリングカットアップは高木と菊池の初期の作風を如実に表現している。このころの製作機材の多くは菊池のデジタルシンセサイザーとサンプラーをはじめとするテクノ的な機材群に高木の執拗な逆回転ターンテーブルがからむといった具合。ところどころにコンピューターによるリズムがからむがこれは菊池が多くを製作している。マッキントークをはじめとするローレンジなサンプリング音は石上の音である。宇佐美はひたすら時には、アートリンゼイばりに、時にはジミヘンドリックスの再来かと思わせるようなギターをひっかいている。時にモンドであり、時にテクノであり、時にノイズ的な作風は変幻自在なBilly?の方向性を決定づけている。

rhizome

[2nd] 1st同様に一曲目は高木と菊池のバトルから幕開けする。よりコラージュ的な作風が強く感じられる。ジャーマンプログレとでも言えそうなアナログシンセ音のコラージュは、菊池のコンピューターにより作成された。石上はより、コンピューターの純粋なピーガー音を追求し、宇佐美はなぜか生録されたエレベーター内の情景を現出させる。奇怪なアレンジは、よりいっそう多様な電子音楽の可能性を追求している。断片化した音源は一瞬の世界の裂け目のようである。

Billy?プロフィール>

1993年前後に菊池行記は、Billy? の前身となるサンプリングサウンドを多用したノイズユニットを名古屋で始めた。数回のセッション的ライブののちBilly?と改名して活動を始める。名古屋周辺で活躍していたノイズインプロヴィゼーションユニットであるDISLOCATIONの岡崎豊廣の演奏に刺激を受け、サンプリング主体によるインプロビゼーションをコンセプトに演奏を開始する。同じ時期に菊池はGUY UNITという集団即興演奏グループにも参加しており、それを通じて主にノイズ、即興、フリージャズ方面のミュージシャンとのセッションを数多く行うことになった。

その影響もあり、ほどなくして当時名古屋周辺の即興、ノイズ、フリージャズ演奏者たちが入り乱れてセッションを行っていた伝説的なセッションスペースのKUKUでセッションを行うようになった。そこで、逆回転ターンテーブル奏者の高木宏和と出会い数回のライブ演奏を行う。高木は海外のノイズ、インプロ、アヴァンギャルド・アーティストに呼びかけ数枚のコンピレーションCDを発売していた。この頃の演奏は、菊池の電子音/ノイズ/サンプリングサウンドに高木の変速逆回転なターンテーブルの音が絡んで行く。高速なカットアップとサンプリングコラージュ主体の演奏といった感じである。

数回のライブ演奏の後、関西でライブセッションを菊池が行った際に、コンピューターによるノイズ演奏をしていた石上和也と出会う。当時から菊池はライブなどでラップトップなども使用しはじめていたが、石上との出会いによりより、いっそうその可能性を感じることになる。また石上は現代音楽をメインフィールドにしており、musique concrèteに感化された音楽を目指していた菊池、高木ともその意味で目指す音楽の方向に共感が感じられた。その結果、サンプリング、コンピューターなどのデジタルな音響をmusique concrète的手法を手本にした音響コラージュで即興演奏することをコンセプトにすることで3人は、意気投合することになる。

最初のアルバムであるBilly? plays funny moodsは、後にTestToneMusicという名称が名付けられる菊池のレーベルからリリースされた。このアルバムにおいて一曲目から始まる逆回転ターンテーブルに目まぐるしくからむサンプリングカットアップは初期の作風を如実に表現していると言えよう。

このアルバムのリリース直前に、DISLOCATIONにてサポートメンバーとして参加していた宇佐見理がギターとして加入する。また数年の後、映像の担当として平尾義之が加入する。このころに2枚目のアルバムrhizomeがリリースされることになるが、パステルピンクの紙ジャケットにイラストを配したジャケットは、このジャンルのジャケットとしては場違いなほどのPOP感があふれるデザインとなっている。宇佐見、平尾は2年ほどで脱退する。また、高木も3枚目のアルバムであるcrinamenでは脱退する。そして加入したのが宮崎哲也である。彼は98年頃から電子雑音のライブ企画などに参加し始めていたがBilly?でのゲスト出演をきっかけにその後正式にメンバーとして活躍することになる。Pure Dataというソフトの使用によるコンピューターサウンドが彼の場合はメインとなるが、アルバムとしては、3枚目のcrinamenからの参加になった。

2000年にリリースした3枚目のアルバムcrinamenは、最近のBilly?の傾向に最も近いサウンドであり、即物的なDSPサウンドが主体になっている。このアルバムに限らず、caregoまでのアルバムでは各人の音素材を菊池が全面的に編集することで制作されているが、caregoにおいては、より断片的な方向性で編集がされており、またすべてがコンピューターによるサウンド処理によって制作されている。フィールドレコーディング的なサウンドやドローン的なサウンドも音響処理の偶然の結果生じたものをトータルなバランスにおいて編集するという方法で進められており、今日的な革新性を感じさせるアルバムになっている。

この前後から菊池は自身のレーベルであるTestToneMusicからCDをコンスタントにリリースし始める。また多くの海外のアーティストのライブを名古屋で主催する。

Billy?は、当時少しづつ使われ始めていたコンピューターをメインに使用しながら、演奏という行為そのものへの批評性をその表現活動において現出させることを主題にしていた。当初のミュージックコンクレートへの偏愛やがらくたを使用した非—音楽的な表現。後期のコンピューターのみでの演奏による非—行為を主体にした批評的、偶然的、唯物的な表現へと至る。音響を表現者の行為と切り離すことを主眼とした演奏という矛盾した課題を追求することにそのコンセプトがあったように思われる。

Billy?は、2003年に4枚目のアルバムcalegoをリリースして、活動を一時的に休止する。この一時的な活動休止期間を経た後に2009年に名古屋でのライブ演奏の再開をきっかけにふたたび菊池、石上、宮崎のメンバーで活動を再開する。

そして2012年には9年ぶり5枚目のアルバムsame motion in different expressionをTestToneMusicよりリリースした。また、ライブ演奏なども定期的に続けている。それぞれのソロ活動も盛んになり、今後はBilly?としての音源作品のリリースを中心に活動を続けて行く予定である。

calego

[4th]高木が再度復活しての4枚目。ターンテーブルによる酔っぱらったようなサウンドトラックの中をmax/mspのカッとアップが走り抜ける。このころより菊池、石上=max/msp、宮崎=PD、宇佐見=SCというラップトップクラフトワークのようなライブスタイルが定着していく。グリッチ満載の変態コラージュ。